当相談室の名前にした“サウダージ Saudade”というポルトガル語、どこかで耳にされた方もいらっしゃると思います。私が大好きな音楽、ボサノヴァの曲名や歌詞にもよく使われていることばです。語感もやわらかで気持ちがいいので、実は意味もよく知らずに相談室名にしてしまいました。決めた後から意味を調べたところ、郷愁、憧れ、思慕、切なさなど、喜びも哀しみも含んだ、ひとつのことばで和訳するのは不可能な複雑で多様な感情を表すことばなんだそうです。
当相談室でカウンセリングを受けて、生きづらさが減り、自由に生きられるようになったと感じてもらえたらうれしい限りですが、よりよい生き方というのは、ただただ毎日が楽しくて幸せで前向きな気持ちでいっぱいなばかりのものではないと思っています。人間が生きていく限り、病気や老いや死は避けられませんし、愛情を感じている人と別れなければならなくなる時もあります。ポジティブと言われるような生き方や感情をいつも持続はできませんし、常にポジティブな状態でいることを目標にするのは無理があります。時に哀しみや怒りや心身の不調も感じながら、複雑な状況や感情をそのまま受け取っていけるような方が、人生が味わい深くなるんじゃないかと思っています。つまり、“サウダージ”のように感情を慈しみながら生きるということでしょうか。そう考えると、勘に頼ってつけた相談室の名前もなかなかいいですね。
ちなみに、ボサノヴァの名曲“Chega de saudade”の邦題は、「想いあふれて」。
なるほどうまく訳したもんです。